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創業者の妹が日展(日本美術展覧会)作家(雅号は柴野芳泉)であったことから、この仮名書と当館は非常に関係が深く、その師匠やお仲間、教室の生徒さんなどからたくさんの書が集まってきました。 今では、菊乃家が誇る自慢として、お迎えするお客様の目を和ませるほどにまで増え、各部屋だけでなく、ロビー、通路など至る所で、独特の書体により“もてなしの心”を表現させていただいております。 さて、この仮名書。 実際はどんなものかご存じですか? まずは鑑賞の前に、こちらの簡単なテキストをお読みになり、仮名書とは本来どのようなものであるか、その点を理解し、ぜひ当館にお越しになってみてください。日本古来に伝わる「書の世界」をもっと深く、そしてもっと叙情的に感じることができるはずです。 |
三十六歌仙のうた[1階ロビー] 泉心書道会・会員 |
私たちが普段、学校や塾で学ぶ「書写・書道」は、まず文字を正確に、そしてより速く、均等のサイズになどを目標として指導されています。これは“読みやすい・整っている=美しい”が今の字の基本となっているからだと容易に想像できますね。 しかし、日本を代表キる日展などに展示される「書美術」の作品は、どれを見てもそうではありません。見た目には何が書いてあるか、はっきりとわからない作品が多数ですが、どこかその思いが伝わる、まるで絵のようなイメージで見ることができてしまいます。 これこそが絵や工芸と同じく、作者の思い、言葉を反映した同じ美術作品として、今も展覧会などで紹介される一番の理由。作者の感性、その思いは、言葉として、また書体として精魂(せいこん)を込め作品内で微妙に表現されているのです。 その特徴としては、
この2つのポイントをまずは理解し、次のステップへ進んでみましょう。 |
柴野芳泉 書 |
日本には、昔から「日本語」という話し言葉はありましたが、その時代書き言葉(文字)はありませんでした。そこでお隣り中国で作られ、使われていた文字「漢字」を借りて日本語を表記したのが今の仮名のはじまりです。
そして、使う上で色々不便を感じた先人は漢字を借り、日本独自の文字「仮名―かな」を作り、歌や手紙などを書くことに用いました。
いつ頃どのようにしてできたか定かではありませんが、かの万葉集(まんようしゅう)(760年頃)では、漢字を日本語に当てはめ、その読みだけを借りたもの「万葉仮名(まんようがな)」を使っています。これは歴史の授業でも学んだ方が多いのではないでしょうか?
日展に出店された仮名書の作品は、題材に和歌を選んでいるものが多いので、この時代の仮名を用いている作品が多く目につきます。
この時代の仮名は、300字くらいありました。今は「いろは」48文字だけを使うようになりましたが、従来の仮名書の作品では、美的表現をより幅広く試みるため、昔ならではの仮名を用いることが多いのです。
もちろん、仮名にはこの300の字が巧み使い分けられています。そのため現在ではあまり使用しない仮名が数多く目立ち、それがみなさんにとって読みにくい、わかりにくいという部分につながっているのかもしれませんね。
仮名書を読む上で、重要なポイントをいくつかまとめました。
以上の内容を参考に、一例としてあげた当館の仮名書を読んでみましょう。
現代詠みのものは
「夕月夜 心もしのに 白露の おくこの庭に こほろぎ鳴くも」
↓これを全てかな読みすると
ゆうづくよ こころもしのに しらつゆの おくこのにわに こほろぎなくも
↓実物は、万葉仮名で書かれている
「夕月夜 古々路毛新のに 之羅都遊乃 お具故乃庭二 こ報ろ支奈久裳」
↓意訳するとこんな感じに
夕月の夜に、心がしなえるほどに白露(しらつゆ)がおりているこの庭に、 こおろぎが鳴いています。
↓現代の詩のようにするとこんな感じに
夕月の淡(あわ)い光の下
しっとりと白露(しらつゆ)のおくこの庭で
しみじみと心にしみる 秋の虫の声
↓更に作者の気持ちを推察すると
好きな人に逢えないでいて心がふさいでいる
どうですか?仮名を通してこれだけの思いを伝えることができるのです。
そして読む側にとっても、これだけの想像を膨らませることができるなんて。
本当にロマンチックだと思われませんか?
ぜひ当館にお越しの際は、この仮名書にも注目して、館内をお立ち回りください。